「丸高万柳」（６）

出身地の酒田まで取材に出かけた

単行本となると、やはり個人の思い出だけでは材料不足で、私は重い腰を上げて、森万紀子さん、本名松浦栄子さんの出身地の酒田まで取材に出かけた。

森さんは謎の作家と言われているが、本人が意識してそう見えるように振舞っていたところもある。

私が何かの折、子供の頃の思い出を話し始めると、「高橋さん、そういうことはあまり言わないほうがいいわ。作家は謎めいたところを残しておくほうがいいのよ」と忠告してくれたことがある。

「なるほど、そういうものかと」と感心したが、平凡な私の人生を謎めいて見せるなどとうてい不可能なことだった。

森さんは酒田のことは一度も話したことがなかったが、経歴には「酒田東高校卒」とあった。

まさか学歴を偽ることはないだろうと、私は真っ先に酒田東高校を尋ねた。

何かの行事があって教職員はみんな出かけ、教頭一人が留守番をしていた。教頭先生は森さんのことは知らなかった。が、卒業名簿には確かに本名の松浦栄子の名前があった。

遠くからやってきた私に同情したのか、教頭先生は同窓会関係の人たちに電話をかけ、森さんの同級生で比較的仲の良かった人を探し出し、彼女が何人かの同級生に連絡し、その夜会ってくれることになった。