シナリオ研究生の頃(10)

エッセイ

「蝶の季節」を、戯曲にしようとしていた。

育児書からヒントを拾い出し、5分番組のドラマに仕立てるのである。

ある時は抱き癖をつけると依頼心の強い子供になるから気をつけようと書き、ある時は赤ん坊はスキンシップが大事で、抱いてやらないと疎外感を持つようになると書いた。育児の参考にしようと思っていた人は戸惑っただろうが、それは私の罪ではなく育児書がそうなっているのだ。

そういう仕事の傍ら私はテレビドラマとして放送になったが、満足できなかった「蝶の季節」を、戯曲にしようとしていた。団地の奥さんたちが次々に蝶になる話だから、テレビでは難しいことはわかっていたが、私にとっては愛着のある作品で、何とかして戯曲にしようとしていた。

田中千禾夫さんに読んでもらったが、「せりふで処理しないで、実際に蝶になった奥さんたちを舞台に登場させるんですよ。蝶になる過程だって見せることができます」ということだったが、そういう大掛かりな芝居は私の手に余るものだった。

悪戦苦闘しているとき、ふと小説になら書けるかもしれないと思いついた。で、早速書き始めると筆がすらすらと進んだ。

戯曲にするために障害になっていたところも、時間や空間に縛られない小説では容易に飛び越すことが出来る。

これまで何度も書き直していたので、話は出来ていたし、せりふも出来ていた。それを小説にすればいいのだから簡単だった。

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