啄木かるた1

エッセイ

絵は中原淳一である

「啄木かるた」というのは石川啄木の短歌五十首をかるたにしたもので、絵は中原淳一である。それが「少女の友」の付録になったのは、昭和14年の新年号で私が小学4年のときである。小学校の低学年の頃は、「少女倶楽部」だったが、4年生くらいになると「少女の友」なり、「少女の友」は女学生にも広く読まれていた。

 と言って毎月買ってもらえるわけではなかった。新年号と春、夏、秋の増刊号くらいである。2つ違いの兄の「少年倶楽部」もそうだった。

 買ってもらえる号のときは発売日を待ちかね、学校から帰るとお金をもらって隣村の本屋まで駆けだす。近道してほとんど人が通らない畑の中の道だが、私にとっては「本屋さんに行く道」として特別な意味があり、懐かしい道である。

店に並んでいるのを買うのではなかった。本屋のおじさんは腰をかがめて奥へ行き、袋に入れて輪ゴムをかけたものを渡してくれる。

 それを抱えて本屋を出て人通りのない畑の中の道に来ると、立ち止まって雑誌を取り出し、胸をどきどきさせながらめくる。そして歩きながら読むのだが、つい読むのに夢中になって足が止まっているときもある。

 小学校には図書室もなかったし、少女雑誌など買ってもらっている子は他にはいなかったから、借りて読むこともできなかった。  たまに買ってもらう少女雑誌が、まだ行ったこともない都会から文化の香りを運んでくれる唯一のもので、私にとっては宝物のようなものだった。とはいうものの私は「少女の友」にどんな読み物が載っていたのか一向に思い出せない。覚えているのは兄の読んでいた「少年倶楽部」の「のらくろ」や「冒険ダン吉」や山中峯太郎の小説である。

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