「蝶の季節」(1)

エッセイ

「婦人公論」の新人賞に応募した。

初めて書き始めた小説だったが、数日のうちに80枚ほどの小説が出来上がり、「蝶の季節」と題をつけ「婦人公論」の新人賞に応募した。

その少し前、テレビの「東芝日曜劇場」で『巷のあんばい』を観て面白かったが、それが「婦人公論新人賞」受賞作品で、OLの若い女性が書いたものだと紹介されていたのである。

 応募して三か月ほど経った頃、編集部から最終予選に残っていると電話があり、経歴などを尋ねられた。そうなるとにわかに自分の作品が傑作に思え、もう受賞した気になっていたが、受賞したのは他の人だった。

がっくりしたが受賞作品の載った号には選者の評も出ていた。他の選者の評は忘れたが、丹羽文雄さんのは「『蝶の季節』は才筆だが小説に慣れてない」とあった。

確かにそうで戯曲から書き直したから、どこをせりふにするか、どこを地の文にするか迷いながら書いたのである。

「社会時評的な部分は不必要」という評も「そうか、そういうものは要らないのか」とすんなり受け止められた。

がっくりした時期が過ぎると、初めて書いた小説が最終選考に残ったのだからと、前向きな気持ちも湧いてきた。

当時はコピー機などなく、コピーをとるには自分で書き写すしかない。

そんな面倒なことはしてなかったが、せめて原稿の控えだけでも残しておきたい。

今ならまだ覚えているからと、思い出すままに書き始めた。

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