学ぶことはまねること

エッセイ

尊敬する作家の文章を、原稿用紙に書き写す

もう十年以上も前のことになるだろうか。ゴッホ没後百二十周年記念のゴッホ展があり、「こうして私はゴッホになった」がテーマで、初期の作品を主にしたものだった。

 強烈な個性を発揮して、独自の画業を達成したゴッホも、初期の頃は尊敬するミレーや、日本の浮世絵、その他先人たちの絵をたくさん模写している。

 学ぶことは真似ることだと言われているが、私たちの文章修行時代も、誰か好きな作家、尊敬する作家の文章を、原稿用紙に書き写すことが奨励されていた。

 私もそうやって文章を書く呼吸のようなものを学んできたように思う。

 今は手書きの原稿はまれになり、大抵の人はパソコンで打ち出し、横書きの小説やメール小説まである。

本も電子書籍になる時代では、原稿用紙に書き写して勉強するなど滑稽以外の何物でもないだろう。

 しかし私はせっせと好きな作家の作品を、原稿用紙に書き写していた頃のことが懐かしい。

研ぎ澄まされた感覚で文章に向かい合っていたような気がする。  音楽や絵とは違って、小説は誰でも書ける文章を使って作品を作り上げることが出来る。と言って文章の修練が不必要だということはないだろう。

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