「仏像は走っている」

エッセイ

「昔,土門拳さんに『篠山君、仏像は走っているんだよ!』と言われたことがある。『パアーッと追いかけてつかまえるんだよ』と」

もう数年前のことになるだろうか。

箱根の「彫刻の森美術館」へ行ったとき、そこの野外彫刻を撮影した篠山紀信さんの写真展が開かれていた。

その篠山紀信さんの「彫刻は常に動いている」という話(産経新聞)の中に、「昔,土門拳さんに『篠山君、仏像は走っているんだよ!』と言われたことがある。『パアーッと追いかけてつかまえるんだよ』と」

 私が仏像に興味を持つようになったのは、土門さんの写真のおかげで、仏像の力強さ、優しさ、厳しさなどを一瞬のうちにとらえた迫力に、いつ見ても圧倒されていた。

 が、「仏像が走っている」とは、思いもよらないことだった。

薄暗いお堂の中にひっそりと佇んで、千年あまりも過ごしていらっしゃると思っていたのに、「走っていたのか」と驚くと同時に、楽しくなった。

 走っている仏像を、土門さんが追いかけて行ってつかまえたのがこの一枚か、と思うと写真がますます魅力的に見えてくる。

 歩くのもよたよたしている歳を忘れて、私も走っているものを追いかけて行って、つかまえたい気になっていたりする。

「彫刻の森美術館」の作品を写した篠山さんの写真も、ただの彫刻ではなくて、晴れた空の下、あるいは雨の日、風の日、それぞれの息遣いまで聞こえてきそうな作品だった。

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