天野博物館

旅行

あの時感じた感触は今も手に残っている

南米ペルーの首都リマに、天野博物館がある。アンチョビ(イワシ)の加工で財をなした天野芳太郎氏が設立した博物館で、主にチャンカイ文化の織物や土器が展示してある。

チャンカイ文化というのはリマの北方にあるチャンカイ渓谷で発達した文化で、特に織物、中でも絹織物が異常に発達した文化である。ここにはその素晴らしい織物や、土器が展示されている。土器のほうは素朴というか、無邪気というか、単純で面白い絵である。身体障害者や病気の人をかたどったものもある。ここでは身体障害者などは、特別な人として神の部類に入れられ尊敬されていたようである。

同じリマにある外人経営の「黄金博物館」が入場料もカタログも高価なのに比べて、天野博物館は入場無料である。

一九九七年、私たちが行ったときは学芸員がアマゾンへ出かけているとかで、ちょうど来合わせていた、慶応大学を出たばかりの芳太郎氏のお孫さんの好青年が案内してくれた。

「触ってもいいですよ」と言われても、展示品に触るなどなかなか手が出なかったが、土器の一つを気軽に取り出して手に持たせてくれた。その軽さに衝撃のようなものが走った。この感じは見ているだけでは絶対にわからないものである。

長い年月がたっても、あの時感じた感触は今も手に残っているような気がする。

 また二本の注ぎ口を持つ彩色壺も、一方の口を吹かせてくれた。軽く吹くだけで笛のように鳴るのである。一方の口から酒を注ぐと鳴る。その音を出来るだけ長くするのが、うまい注ぎかたで、そんなことを楽しんでいたのだ。

 私は別に博物館の展示品に触りたいと言っているわけではないが、実際に触ってみなければわからないことも多いということは、いつも心していたいと思う。

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