「婦人公論」の新人賞に応募した。
初めて書き始めた小説だったが、数日のうちに80枚ほどの小説が出来上がり、「蝶の季節」と題をつけ「婦人公論」の新人賞に応募した。
その少し前、テレビの「東芝日曜劇場」で『巷のあんばい』を観て面白かったが、それが「婦人公論新人賞」受賞作品で、OLの若い女性が書いたものだと紹介されていたのである。
応募して三か月ほど経った頃、編集部から最終予選に残っていると電話があり、経歴などを尋ねられた。そうなるとにわかに自分の作品が傑作に思え、もう受賞した気になっていたが、受賞したのは他の人だった。
がっくりしたが受賞作品の載った号には選者の評も出ていた。他の選者の評は忘れたが、丹羽文雄さんのは「『蝶の季節』は才筆だが小説に慣れてない」とあった。
確かにそうで戯曲から書き直したから、どこをせりふにするか、どこを地の文にするか迷いながら書いたのである。
「社会時評的な部分は不必要」という評も「そうか、そういうものは要らないのか」とすんなり受け止められた。
がっくりした時期が過ぎると、初めて書いた小説が最終選考に残ったのだからと、前向きな気持ちも湧いてきた。
当時はコピー機などなく、コピーをとるには自分で書き写すしかない。
そんな面倒なことはしてなかったが、せめて原稿の控えだけでも残しておきたい。
今ならまだ覚えているからと、思い出すままに書き始めた。
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