シナリオ研究生の頃(4)

エッセイ

書く楽しみが少しわかってきた

池田さんをモデルにして書いた一幕物の「コップの中で」は、自分はコップの中に閉じ込められ、外の世界を見ることは出来るが、実際に触れることも働きかけることも出来ないと感じている女主人公の部屋に、彼女は手製のジャムやお惣菜、それに殺風景な部屋を飾る物など持って訪ねてくる。

そして話すことといえば夫や息子の自慢話で、主人公には有難迷惑なのだが、気が弱くて面と向かっては何も言えない。

せめて一度だけでも彼女を動揺させたくて、その日彼女が訪ねてくる前に、「誰だって自分をヒロインに見立てて、ひと芝居打ちたくなる時があるでしょう」と観客に向かって用意した小道具、玩具のピストルや会社が倒産しただの紙切れになっている株券の束などを見せて説明する。

が、それがどんな芝居になるかは主人公自身にもわからない。やがて彼女が訪ねてきてお芝居が始まり、彼女を動揺させることは出来たが、彼女が帰った後はさらに孤独になるという芝居である。

池田さんは私の部屋に来たことはなく、私の世話を焼くこともなかったが、そばで見ているとそういう芝居を書きたくなるのである。

池田さんだけでなくグループの一人一人を主人公にして芝居が書けそうだった。ごく平凡に見える人でも、一つ特徴を見出せばいくらでも話が拡がるということで、書く楽しみが少しわかってきたのである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました