シナリオ研究生の頃(3)

エッセイ

一人一人を観察しその人の身の上に思いを馳せ、いろいろ想像するのが好きだった。

 シナリオライターになりたいと真剣に思っている人は、毎日こんなところには来ないのだ。

通い始めた頃、若い女性の一人と電車で一緒になったことがある。「私たちには書くしかないのよ。こんなところに来て時間を無駄にするわけにはいかないのよ」と彼女は言い、私も同感だった。

彼女はそれ以来授業には顔を見せなくなり、時たま授業が終わる頃、書き上げたシナリオを抱えてやってきて、お目当ての講師に読んでもらうように託して帰るだけだった。

私はというと相変わらず毎日熱心に通っていた。教室を休んでも、彼女のようにせっせと書く材料がなかったのである。

私は自分を人間嫌いと思っていたが、そうでもなかったようで、この人たちと付き合っても得るところは何もないと思いながら、毎日楽しく過ごしていた。

一人一人を観察しその人の身の上に思いを馳せ、いろいろ想像するのが好きだった。もちろん私のとらえる人物像は、私の独断と偏見に満ちてはいたが。

私は早速池田さんをモデルにして、一幕物の戯曲を書いた。池田さんは世話好きだったが、決して過剰に世話を焼くこともなく、まして私のことなど意識もしてなかっただろう。

が、私は被害妄想的なところがあり、彼女に哀れまれていると思っていた。

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