東山魁夷画伯の「道」

エッセイ

表現者としての姿勢は同じ

 東山魁夷さんの絵はどれも好きだが、強いて一つと言われれば「道」である。東山ブルーと言われる色鮮やかな緑の真ん中を白い道が一本貫いている。道は緩やかな上り坂で、画面の奥で右に曲がり、左に曲がり、草むらに埋もれながらどこまでも続いて行く。

 ずっと以前テレビで、画家がこの絵を描いた道の写真を見たことがある。東北地方の海辺に近い道で、何の変哲もないありふれた道である。正面に灯台の白い建物が見える。素人目にはその灯台が絵心をそそりそうである。実際、東山画伯も灯台や左手の小高い崖を入れた、より実景に近い絵も描いている。が、最後にはそれらすべてを切り捨て、道だけにしている。

 ごく単純な構成であるが、近づいてみると白い道の水たまりの乾いた跡や、風にそよぐ道端の草の一本一本も丹念に描かれていて、自分がその道に立っていて、自分のこれまで歩んできた道、これから歩んでいく道のような気にさせられる。

 私なら「白い道」とか「一本の道」とかの題をつけそうなところだが、そういう思い入れというか、説明的な言葉を排して、ただ「道」という言葉だけにしたのも、やはりすごい。  絵と小説とジャンルは違っても、ありふれた風景の中から真実をつかみ取り、余計なものは切り捨て、しかも細部は丹念に描写して、見るものを自分の世界に引き付ける。表現者としての姿勢は同じなのだと思う。

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