「丸高万柳」(13)

エッセイ

「柳子さん、ずるい、約束が違う」私としてはそう言いたい気持ちだった。

いいところはいいところだが、ここでの生活が大変なことは私にもわかっていた。昔はどんな辺鄙なところでも食品や雑貨を売る店があり、ないところには行商人が売りに来た。が、今は大抵の家に車があり、遠くのスーパーまで買い出しに行っている時代である。

柳子さんも二、三年前まではスクーターに乗っていたという。スクーターにも乗れない私などはどうしようもないだろう。

「今、栄海さんのお墓を作っているところです」

伸子さんに案内されて墓地のほうへ行くと、墓地の一番手前に殆ど完成されたお墓があった。仏教に無知な私はこういうお墓をどう呼ぶのか知らないが、墓石の上に丸い石を載せ屋根を付けたお墓である。

小ぶりだが調和がとれ、いかにも女の坊さんの墓らしい上品さがあった。まだ真新しいせいかお墓というより、一種の芸術作品のような感じだった。

墓石には「杉本山観音院第五十三世 小僧都 山崎栄海」の文字が刻まれていた。

柳子さんもこんな立派なお墓に納まるのか。私は複雑な気持ちだった。

そういえば葬儀も僧侶が三十人も集まって盛大に行われたらしい。式次第や栄海さんの略歴や僧歴を載せた小冊子も立派なものだった。

「柳子さん、ずるい、約束が違う」 私としてはそう言いたい気持ちだった。

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