明日の朝7時にロビーに集合
彼女は私が持っていたホテルカードを運転手に見せ、料金も聞いてくれた。日本円にして二千円くらいで、私がホテルで聞いてきた料金とあまり変わらなかった。電車で遠くまで来たように思っていたが、ホテルからはそれほど遠ざかってはいなかったらしい。
彼女にお礼を言って私が乗ると車は走り出したが、運転手は「ヤポンか？」と聞き、私が「イエス、フローム東京」と答えただけで、あとが続かない。
あたりはすっかり暗くなっていて、明るい電灯に照らされた小さな店が両側に並ぶ小道を走った。そのうち大通りに出て風景が開けるかと思っていたが、いつまでも裏通りのような商店街が続くだけである。
ウイーンにはホリデインホテルが三軒ある。何かあったときはホテルカードを見せるように言われていた。ホテルカードは見せてあるが、運転手にわかっているかどうか、それさえ聞けないのである。
私は一人部屋を取ってきているから、今晩ホテルへ帰らなくてもだれも心配する人はいない。明日の朝7時にロビーに集合して帰国の途に就くことになっている。
その時になって私がホテルに帰っていないことがわかる。美術史美術館で同じツアーで来ている坂田さん夫婦に会い立ち話もしたから、そこまでの足取りはわかるだろう。しかしそれ以後はたどれないのだ。
(続きます)
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