酔い止めの薬2

旅行

その日は快晴で風もなく、19人乗りのセスナ機は、揺れるどころか微動だにしないで快適に飛んでいる。眼下には自然の驚異と言われるグランドキャニオンの絶景が広がっていて、それを見るために、高度を下げているのだが、乗る前に飲んだ酔い止めの薬が効き始めたのか、操縦士の説明のアナウンスの声が次第に遠くなり、猛烈な睡魔が襲ってきた。私は知らなかったが、酔い止めの薬というのは、睡眠薬と同じようなものではないのか。眠らせておけば酔いに苦しむこともないのである。

「わ!すごい」「あれ、見て」などと興奮気味に叫んでいる声を聞きながら、見なければと必死で頑張っても、どうしても目を開けていることができなかった。私の他にもうとうとしている人が何人かいた。

 グランドキャニオンではロッジに泊まり、翌朝日の出を見に行き、刻々と色が移り変わっていく雄大な景色に息をのんだ。

 帰りは絶対に薬など飲まないで景色を見ようと意気込んでいたが、他のツアー客と一緒に大きな飛行機に乗り、渓谷ははるか下のほうに見えただけだった。  その飛行機で隣席だった佐藤さんに「ナスカの地上絵での宙返り飛行で大丈夫だった人が、添乗員が言ったからといって、どうしてお薬をのまないといけないのよ。案外自立していないのね」と言われて一言もなかった。

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