「死と乙女」(2)

旅行

「死と乙女」という弦楽四重奏曲もある

三人は入り口近くの「死と乙女」の前で足を止め、母親が説明をはじめた。黒衣に覆われた死人、あるいは死神に、やせ衰えた若い女がしがみつくようにして横たわっている不気味な絵である。私なら子供には見せたくないが、母親は熱心に話し、子供たちもおとなしく聞いていた。

何を話しているのだろうと長い間気になっていたが、検索してみた。

この絵は、シーレーがそれまでの恋人と別れ、新しい恋人と結婚する数か月前に描かれたことなどのほかに、「死と乙女」のタイトルはシーレー独自のものではなく、そういう概念が先にあり、シューベルトの曲などでも取り上げられ、「死と乙女」という弦楽四重奏曲もあるということだった。

「死と乙女」の話には、乙女が「私はまだ若くて、死にたくありません。どうかよそへ行ってください」と頼むが、死神は「お前を苦しめるために来たのではない。お前の魂を安楽にするために来たのだ」と答えるのである。

有難いことに日本では死ぬとき迎えに来るのは死神ではなくて、菩薩さまが雲に乗って迎えに来る「菩薩来迎図」というのがあり、臨終の人の枕許にかけられることもあるという。

私は信心深いほうではないが、死神に迎えに来られるよりやはり菩薩さまのほうがいいと思うが、子どもの頃から容赦ない死の現実と向い合わされているあの子たちのほうが、充実した生を生きるのでないかとも思う。

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