1998年東欧へ行ったとき、チェコのプラハや、温泉保養地や、さらにハンガリーのブタベストでも、バイキング式の朝食会場に、西洋梨といわれるラ・フランスがたくさん出ていた。日本ではまだ珍しく贈答品によく使われていたが、食べごろが難しく、私は一度も美味しいとは思わなかった。
ほかにはぶどうと柑橘類が出ていたが、どちらも現地では獲れないから、ぶどうの蔓は古びて黒くなっているし、柑橘類も固くて小さい物ばかりである。で、私は仕方なく、小さくて固いみかんを食べていた。
ブタベストのホテルで朝食のとき、相席を申し込んできた女性がいた。彼女がどこの国の人か、私にはそれさえわからなかったが、スーツをきちんと着こなしたところは、キャリアウーマンという感じだった。が、仕事で来たとしても首都の一流ホテルに泊まれるのは、かなり高い地位でなければならないだろう。彼女はラ・フランスを二個とナイフを皿に載せて帰ってきた。そして器用に皮をむいて美味しそうに食べ、コーヒーも飲まないで出て行った。
そのホテルは2泊だったので翌朝、私は試しにラ・フランスを取ってきて食べ、そのおいしさに驚いた。これまで食べなかったことを後悔したが、明日からの旅行が楽しみだった。毎朝こんな美味しいものが食べられるのである。そう思っていたが、翌日はオーストリアへ入り、ラ、フランスは朝食会場で見かけることもなくなった。 いまこれを書きながら思いついたが、果物屋を探せば売っていたかもしれない。しかし今頃気づいても、いかんせん遅すぎる。