「蝶の季節」(2)

エッセイ

書きたいことが次々に思い浮かんで面白くなった。

一度原稿用紙に書いた文章は、結構覚えているもので、私は思いだしながら書き進めた。

蝶の飛ぶさまの描写に苦労した思い出なども蘇ってくる。

しかし「不必要だ」と言われた社会時評的な個所になると、覚えていてもそのまま書く気にはなれない。で、その部分をカットすると次へどう繋げるか、改めて考えないといけない。

そんなことをしているうちに、前の原稿の再現から大きく逸れて、部分的には前の原稿の一部を借用しているが、新しい作品を書いているのと同じことになった。

語り手の主人公の内面に一歩踏み込むと、書きたいことが次々に思い浮かんで面白くなった。

夜、ベッドに入ってからも書きたいことが思い浮かんで、起きだして書くこともあった。

最初の原稿には社会時評的な部分が半分以上あったが、それを全部カットし、今度もやはり八十数枚になった。  

作品が仕上がるとまたどこかへ応募したくなり、本屋へ行くと「新人賞発表」と表紙に印刷された「文学界」の十一月号があった。

どんな作品が受賞したのだろうと手にしたが、受賞作はなく、よほど不出来な作品ばかりだったのか、選考委員はいい作品がないと嘆き、その一人の石原慎太郎氏は「小説としての最低の条件である面白ささえない」と切り捨てていた。

「蝶の季節」は面白さならあるのではないか、そんな気持ちで応募した。

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