ムクドリたちの話(1)

ムクドリたちの話

遠くの山並みの向こうから富士山が顔を覗かせていました。

まゆみが住んでいるのは、団地の8階建ての建物の8階の、エレベーターから一番遠い端っこの部屋です。

母親の静江は毎朝7時にはお仕事に出かけ、まゆみも7時半にはランドセルを背負って学校へ出かけます。もう小学4年生ですから、出かけるときは自分で玄関のドアのカギをかけ、帰ったときは自分でカギを開けて部屋へ入ります。

小学校へ入学した頃は、同じ建物の麻子ちゃんところへ寄って、夕方まで一緒に宿題をしたり遊んでいました。でも、新型コロナが流行し始めてからはそれもなくなり、まっすぐ家に帰るようになったのです。

家に帰っても誰もいないから、おやつを食べながらスマホでゲームをしたり、友達に借りたマンガを読んで過ごしています。

マンガにも飽きると、何となくベランダに出て外を眺めます。三年ほど前まではベランダに出ると、遠くの山並みの向こうから富士山が顔を覗かせていました。

それが嬉しくて、毎朝起きるとすぐベランダに出て「お早う」と富士山に挨拶をしていたものです。

が、今は少し離れたところに12階建ての大きな建物が建ち、富士山は見えなくなりました。ベランダから見下ろせるのは、団地のそばを通る銀杏並木の通りで、通りの向こう側も都営団地で、こちらと同じよう な建物が並んでいます。建物が並んでいます。

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